「ねえ・・・志貴」

大型バギーを運転する俺にアルクェイドが声をかける。

「なんだ?」

「本当にこんな所に屋敷なんてあるの?」

「この馬鹿女。それを確かめる為に俺達は今そこに向かっているんだ」

俺達九人は今アメリカ・アパラチア山脈の麓をバギーで疾走していた。

運転しているのは俺(去年国際免許を車種無制限で取得)で助手席に沙貴、その後ろに先輩・シオン・翡翠・レン。

最後尾にはアルクェイド、秋葉・琥珀さんが座っている。

「ですが志貴、真祖の言う通りここには屋敷どころか小屋すら見当たりません。本当にこの方向であっているのですか?」

シオンも不安になって来たらしく俺にそう尋ねてくる。

「まあ、情報を信じればな・・・」

無論だが旅行などではなく遺産の調査の為だ。

休息の旅行が終わってから暫くして有彦から連絡が入った。

いつもの通りの情報に関しての報告だった。

そして情報を聞くべくいつもの集合場所で落ち合った。

「とりあえず情報を見つけてきた。大分ものも少なくなってきているから前回に比べて少ないけどな」

「そっか・・・で今回のは?」

「こいつだ。場所はアメリカ、アパラチア山脈の麓に古い屋敷があるんだが、そこに得体の知れねえ化け物がうようよいるって話でな捜査に向かった警察も含めて毎年百人単位で行方不明者が出ている話だ」

「しかし、屋敷と言うと住人はいるのか?」

「いや、登録上はこの屋敷は今現在無人らしい。しかし、この内部を見た人の話だと、内部は清掃されていてとても無人とは思えなかったと言う事だ」

そんな情報を受けて俺はいつもの如く現地に飛び車を手配していざ調査と言う事になった。

ちなみに何故他の皆がついて来たかと言えば、アルクェイドの一言「退屈だったから」につきると思う。

しかし・・・秋葉いいのか?幾ら何でもこうも連日屋敷を留守にして・・・

それにしてもシオンの言うとおり、この周辺には屋敷どころが小屋すら見当たらない。

おまけに夜も更け始めた。

「仕方ない。今日の所は街に帰って明日また出直そう」

俺がそう言うと皆賛同した。

ところが・・・

「あれっ?まただ・・・」

俺達は街にも戻れず荒野をただぐるぐる回っているだけであった。

「兄様・・・もしかして道に迷われたのですか?」

「ああ、迷ったみたいだ」

沙貴の不安げな声に俺はバギーに搭載されたナビゲーションを凝視してそう呟いた。

「ええーーー!!」

「兄さん!!どう言う事ですか!!」

後ろでいろいろ騒ぎ立てているが、俺は未だにナビゲーションを凝視しながら言葉を繋げる。

「言葉が足りなかったな。何かに迷わされたようだ」

「えっ?」

「志貴さんどう言う事ですか?」

琥珀さんの問いに俺はあえて答えず

「アルクェイド、ちょっと車から降りて何でもいいから目印書いてくれないか?」

「えっ?うん良いけど・・・」

「それと翡翠とシオンはアルクェイドが何を書いたのか確認して」

「はい・・・」

「志貴、一体何をする気ですか?」

「少し確認したいだけさ」

それから数分後ようやく戻ってきたアルクェイド達を乗せて俺はバギーをめちゃくちゃに走らせ始めた。

すると、何かに気付いた様に翡翠が声を上げた。

「シオン様!あれは・・・」

「!!そ、そんな馬鹿な・・・」

二人が絶句している視線の先には

『志貴激ラブ!!』

と言う文字がでかでかと書かれていた。

「「「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」」」

それを見た全員(翡翠とシオン除く)は声を失った。

先輩や秋葉すらも食って掛かる事を忘れ呆然としている。

「おい・・・」

「んーー何志貴?」

「お前・・・いやもう良い。ともかくだ、あんな馬鹿げた目印書いた奴が他にいる筈が無いしな」

余りのお気楽ぶりに俺は怒鳴る事も諦め全員に状況を認識させた。

「では・・・兄様・・・これは・・・」

「遺産なのか他の何者かの妨害かわからんが、俺達は明らかに結界にはまり込んだ」

「七夜君どうするんですか?」

「どうするも何も今現在ではどうしようも出来ませんよ先輩。最悪ここで一泊かも・・・」

「でも何の為に?」

「結界には二種類の役目があります秋葉、敵を侵入させない為の役割と敵を内部に封じ込める役割・・・」

そこまで言った時だった。

「志貴さま・・・」

不意にレンが服を引っ張ってきた。

「ん?どうかしたのか?」

「あそこに明かりが見える」

その言葉に全員がレンの指差す方向に視線を向けると確かに明かりが見える。

「えっ?何時の間に・・・」

「そんな事より志貴あそこに行って見ようよ〜」

「そうですね七夜君」

「あ、ああ・・・」

俺は首を傾げつつもその灯りに向かう事にした。








やがて辿り着いたのは『空間を繋ぐ館』と同じ位の大きな洋館だった。

「・・・兄様・・・おかしいです。今までこんな屋敷なんて無かったのに・・・」

沙貴が不安げに俺に尋ねる。

「ああ、俺も今日は何度もこの周辺を回ったからわかる。こんな館今まで無かった・・・」

そんな俺達をよそに、秋葉がベルを鳴らす。

暫しの静寂。

やがて、

「はい・・・」

中から声が聞こえ、ドアが静かに開かれた先には、秋葉か沙貴と同い年であろうか?妙齢の少女が立っていた。

地元の人間なのだろう金髪と、紺碧の瞳の綺麗な少女・・・

しかし、俺が事情を説明しようとするとそれを押しのけて秋葉が説明に入る。

「な、何だ?」

更にアルクェイドと先輩によって更に後ろに回される。

「七夜君は下がっていてください」

「そうそう、志貴は無意識で女性をおとすから私達以外の女性との接触禁止」

「失敬な・・・」

そんな事を言っている間に、

「申し訳有りません夜分遅く。実は車がオーバーヒートしてしまいまして・・・宜しければ今夜一晩止めていただければ幸いなのですが・・・」

「まあ・・・それは大変ですね。少々おまちください。姉に了解を取ってまいります」

「あらお姉様もいらっしゃるのですか?」

「はい、今使用人達が全員いませんのでここにいるのは私と姉だけですので」

そう言うと、少女は屋敷の奥に消えていく。

「聞きました?シオン」

「はい、こうなるとますますもって、志貴とあの姉妹を鉢合わせる訳には行きません。」

「とりあえず志貴さんには誰かが絶えず監視の意味でいた方がいいですね」

「はい・・・姉さんの言うとおりです」

「・・・・・・・(こくん)」

「あの・・・兄様に限ってそのような事は・・・」

「甘いわよ沙貴。志貴の魅了の力は私達を見れば判ると思うけど」

「う・・・それは・・・そうですけど・・・」

はたから聞けば散々な言いようである。

(鳳明さん、どうですか?)

(・・・特に異常な点は無いな。しかし何故、先ほどまで無かった屋敷が突如として現れたのか・・・)

(それにあの結界は何者がしかけたのか・・・わからない事が多すぎます)

(ああ、しかし、注意しろ。籠庵の場合もあるからな・・・)

一通り精神上の会話が終わると同時であろうか・・・奥から先程の少女と先輩位の歳であろうか?

女性が玄関にやって来た。

姉妹だけ合ってよく似ている。

「妹から話はお伺いしました。どう上がって行って下さい。幸い当屋敷には部屋だけは余っておりますので」

そう朗らかな笑みを浮かべて姉の方が言う。

「どうもありがとうございます・・・えーと・・・」

「あら?サファイア。あなた自己紹介したの?」

「ごめんなさいルビーお姉様、忘れていました」

「もう・・・」

そう言い軽く肩をすくめると改めて俺達の方に向き直りお辞儀しながら自己紹介を始めた。

「自己紹介が遅くなりました。私この屋敷の主でございます『ルビー・エイトムーン』と申します」

「妹の『サファイア・エイトムーン』です」

「あら?宝石の名がお名前なのですか?」

「はい、父が宝石商を営んでいた事と、母が殊更宝石を愛していましてそれが講じて私達の名前も宝石の名となりまして・・・」

「そうなのですか・・・では私達も・・・」

そう言うと、秋葉から始まって自己紹介を始める。

「では・・・客室にご案内いたします。・・・あら?ところで後ろの殿方は・・・」

「彼の事は気にしないで下さい。当家の使用人ですので」

秋葉・・・お前俺に他の女性を接触させない為とは言え、そこまで言うか?

「そうですね。彼は近くにおいてある車に泊めさせますので」

「まあ、それではお体に悪うございます」

「心配は無用です。彼は殊更頑丈ですので」

先輩・シオン・・・

本気で泣きそうだった。

「失礼ですが・・・」

その時ルビーさんが強い口調で秋葉達に尋ねる。

「そちらの方少しこちらに来て頂けませんでしょうか?」

「えっ?どうしたんですか?一体・・・」

その言葉に首を傾げた俺がすっと前に出ると、姉妹の驚愕は更に深いものとなった。

「!!!お、お姉様・・・」

「ま、まさか・・・そんな事が・・・」

そう呟くと、二人同時に大粒の涙を零して、二人同時に抱きついた。

更には二人は俺に交互にキスを繰り返しながら。

「「「「「「「「ああああああーーーーーーーー!!!!!」」」」」」」」

その結果は書くまでも無い事である。

この八つの悲鳴が全てを物語っているのだから・・・







結局俺も含めて全員この屋敷に泊めさせてもらう事になったのだが・・・

何故か俺はその足で浴場に直行させられていた。

無論だが殺気だった八人の視線を一身に浴びながら・・・

「どうですか?シキ?」

「いや、いいと言えば良いのですが・・・」

俺は湯に浸かりながらも途方に暮れる、そんな表現がぴったり来る口調で二人に問いかける。

「あの・・・何故俺は厚遇されているのでしょうか?」

「それは当然です。シキ貴方は私達にとって・・・」

「ええ・・・お姉様・・・」

何故そこで紅くなるのでしょうか?ルビーさん、サファイアさん。

「さあ、シキ上がってください。お体を洗いますので」

「!!!っ!!い、いいです!!それはいいです!!!良いお湯でした!!」

そう言うと、俺は二人の合間を縫う様に浴場を脱出したのだった。







どうにか危機を脱した俺だったがその後にさらに深刻な危険が存在していた。

それは無論・・・

「それで、志貴・・・」

「はい、アルクェイドサン」

「何処でどの様にしてあの姉妹とお知り合いとなったのか是非ともお聞かせ下さい」

「だからな・・・秋葉何度も言っているが彼女達とは初対面だ」

このように一室でアルクェイド達の詰問・・・いや、拷問一歩手前の尋問を受けていた。

「ではあの情熱的な歓迎は何でしょうか?」

「先輩それは俺が知りたいです」

「志貴様・・・不潔過ぎます」

「あはは〜志貴さん姉妹丼でしたら私と翡翠ちゃんがいるじゃありませんか〜」

「翡翠・・・頼むから俺を極悪人扱いしないでくれ・・・それと琥珀さんも危険発言しないで下さい」

「・・・・・ひっく」

「兄様・・・ぐすっ・・・」

「・・・レン、それに沙貴頼むから・・・俺は無罪だから・・・その涙眼はよしてくれ・・・」

「志貴、あの二人の視線は紛れも無く貴方を知っている視線です。つまりは・・・」

「シオン、だったらエーテライトで俺の頭調べればいいだろ」

「無駄です。最近志貴は自分に都合の悪い思考は巧妙に隠すことも出来る以上無意味に等しい。おまけに志貴の場合行きずりであの姉妹と関係を結んだ可能性も極めて大きくその場合志貴が二人を忘却していると・・・」

「だから!!俺はあの二人とは初対面なんだ!!」

「「「「「「「「・・・じーーーーー(疑わしい視線)」」」」」」」」

「は、はははははははは・・・・」

俺としてはもう乾ききった笑いを浮かべるしかなかった。

コンコン・・・

「失礼いたします。皆様お食事のご用意が出来ました。どうぞホールにおいで下さい」

朗らかな笑顔を見せながらサファイアさんが現れる。

「そうですか・・・では食事に行くとしましょうか」

「そうね、志貴についてはまたじっくりと説明するとして」

はあ・・・まだ尋問は続くらしい・・・

「シキ・・・お姉様がお待ちですからこちらに・・・」

そう言うと、サファイアさんは俺の手を取り部屋を後にする。

ただでさえ膨大な殺気が、更に膨れ上がって来た・・・

(もう・・・泣きたい・・・)

本気で泣きたい気分であったが何よりも・・・

(志貴・・・お前本当に潔白なんだよな?)

誰も信用してくれる人がいないと言う事が最も辛かった・・・

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